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政府がアフリカ南西部ナミビアとの間で、身近な家電やハイテク製品など用途が幅広いレアアース(希土類)のサプライチェーン(供給網)強化のため、包括的な協力を進めることで合意した。政府がレアアースの鉱床保有国と包括的な合意を結ぶのは初という。
中国はレアアース生産の6割、鉱石から金属を取り出す製錬の9割のシェアを握る。レアアースや重要鉱物の確保は経済安全保障上の重要な課題となっており、日本政府は調達先の多角化を急ぐ。ナミビアは未開発ながらレアアースの鉱床が確認されており、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が探鉱を行っている。
8月6日からアフリカ諸国を歴訪した西村康稔経済産業相は8日にナミビアで担当閣僚と会談。採掘、製錬、流通、産業化を含めた包括的協力を盛り込んだ「ナミビア・レアアース産業マスタープラン」の策定で合意した。
レアアースに加えコバルトやリチウム、ニッケルといった重要鉱物の供給網強化も図る。脱炭素社会実現に向けた蓄電池などに欠かせないからだ。今回の訪問先のコンゴ民主共和国(旧ザイール)やザンビアとは、鉱山探査の協力などで一致する方向だ。
政府が重要鉱物の確保を急ぐ背景にも中国の存在がある。中国は投資を進め、他国の鉱山権益を「爆買い」したり、製錬でのシェアを高めたりしている。半導体素材の希少金属であるガリウムとゲルマニウムで行っている輸出規制が他の重要鉱物に拡大しかねないとして警戒感が強まっている。
アフリカ諸国歴訪を前に産経新聞のインタビューに応じた西村康稔経済産業相との主なやり取りは次の通り。
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-歴訪の狙いは
「重要鉱物の確保だ。経済成長や経済安全保障の観点から、日本の平和と繁栄にとっての最重要課題のひとつだ」
-ターゲットは
「レアアース、コバルト、リチウム、ニッケルの4つだ。ナミビアはレアアースに大きな潜在力がある。コバルトは、コンゴ民主共和国が生産量世界1位、ナミビアも潜在力がある。各国を訪問し、10以上の署名締結、共同声明の発出、協力の合意を実現し、サプライチェーン(供給網)を構築したい。鉱山開発などに参加する日本企業には、約15億ドル(約2158億円)の予算支援も用意している」
-いずれも経済安保推進法上の重要鉱物で、中国への依存度が高い
「レアアースは生産の6割、製錬の9割を中国に依存している。スマートフォンなどに不可欠なコバルトやリチウムは製錬の6~7割、ニッケルは需要の過半を中国に依存している」
-半導体製造に必要なガリウム、ゲルマニウムについて中国が輸出を規制している
「供給源の多角化の重要性が高まっている。過度な中国依存の引き下げに向け、粘り強く代替供給網を構築することが急務だ」
-アフリカの重要性は
「今後、人口が最も増え、成長する。特に重要鉱物は豊富な埋蔵量がある。信頼できるパートナーとして仲間に入ってもらいたい。供給網の構築という面ではインド太平洋経済枠組み(IPEF)があるが、安倍晋三元首相が提唱したFOIP(自由で開かれたインド太平洋)の考え方を、アフリカ、中南米にも広げていきたい」
-経済安保上の取り組みは
「『上流』での資源開発を進める探鉱・鉱山開発、製錬事業の強化、代替技術の開発、緊急時の備蓄を大胆に進めるため先頭に立って具体的に施策を作り推進していく」
-自身が所属する自民党安倍派(清和政策研究会)の新体制は
「今すぐ新たな体制を作るよりも、少し進化させた形で、閣僚経験者を中心に進めていく雰囲気が出てきている」
聞き手:沢田大典(産経新聞)
■レアアース(希土類) 「ネオジム」など17種類の元素の総称。産出量が少なく、抽出が難しいレアメタル(希少金属)31鉱種の一種。ネオジムが次世代自動車の小型モーターに活用されているほか、他の素材もスマートフォンの製造、省エネ家電などで不可欠とされる。少量を加えるだけで素材の性能を高めるため「産業のビタミン」とも呼ばれる。